第3回


今日は、広島のコンサートで見た高橋愛の感想を書きます。『リズム』第2回の流れから、ダンスに絞った感想です。

広島ではコンサートに入る前から「リズムセクションを常に念頭に置こう」という意識を持っていました。ドラムやベースなどですね。もちろんモーニング娘。のメンバーは自分達のパフォーマンスを見て欲しいのであってカラオケのバッキングを聞きに来て欲しい訳ではないでしょうし、僕自身もそのためだけに広島まで行く程、酔狂ではありません。


でも今ツアーでは普段は意識しない箇所もしっかり聞こう、という気持ちもありましたし、それに観客のこちら側はステージから流れてくるメロディを楽しんでいますが、そのメロディを作り出しているのはメンバー達であって、彼女達が何を聞いてメロディを紡ぎ出しているのかといえば、メロディのないバックの音楽です。なら、その点を頭に置く事はステージ上のメンバーの動きを観察するための一助になるだろうと思いました。まあ、コンサートの楽しみ方に、1コを「足した」という感覚です。


その『リズム』を通して高橋愛を見てみると、正直、驚きの連続でした。素晴らしかった。

一言の形容詞で表すとするならば「堂々たる」といった所でしょうか。線の細い部分がほとんど見受けられませんでした。


まず、テンポ取りの安定感を感じました。彼女が参加するほとんどの曲で、その動きは『イン・テンポ』でした。曲のリズムに対して早くもなく、遅くもない。ほとんど揺らぎのない、しっかりとしたテンポを、高橋愛は刻んでいます。

そして安定感に更に拍車をかけているのが彼女の動きです。第2回の更新でちょっとした「実験」をしました。自分の言葉足らずな文章よりも実際に体験して頂いたほうがわかりやすいだろう、と判断しての事です。


改めて自分なりに文章にし直すと、高橋愛はテンポが打たれた瞬間に踊りを「振り抜く」のではなく、テンポとテンポの間をフルに使って体を動かしているのです。もちろん全部の振り付けでそういう挙動を示している訳ではありません。僕はこういう感想を書く時は1点を見つめるために「特化」した書き方をします。こういう一面があるのだ、という見方を綴っているとお考え下さい。

話を元に戻して、図解すると、


 「テンポ1」→○→△→「テンポ2」 



という流れがあった時に、高橋愛は「○」の部分で動きを止めるのではなくて「△」の部分も、もっと言えば「テンポ2」が打たれる直前まで「テンポ1」の時の動きを続けているのです。彼女の動きがゆっくりと落ち着いて見えるのは、その滞空時間の長さの為です。


以前の高橋愛は、テンポ取りは早め、そして瞬発的に振り付けをこなす場面が多かったと思います。「キレのあるダンス」と評される事が少なからずあったのはその辺りに由来しているのではないでしょうか。その点で、昔と今の愛ちゃんは踊り方は違うと言って差し支えないと思います。


でも、今の動き方でないと作り出せない雰囲気が確かにあるのです。今日は2曲について、感想を書きます。



□ THE マンパワー!!!


もう一度上の『図解』を見て頂きたいんですが、「テンポ取りを早め」にすると「△」が欠け、「テンポ取りを遅め」にすると「○」が欠けます。実際は○も△も同じ時間の流れの中にいるので欠けてはいないんですが、見ているこちらは会場に流れている一定のリズムに自然と身をゆだねているので、なんだか欠けている印象を受けるのです。演者のテンポ取りが単に不安定だったのなら、尚更そう感じる筈です。

でも高橋愛はこの曲で、怒涛のイン・テンポを見せています。揺るぎ無い安定感です。この曲にはその安定感は、あってしかるべきのものだと思います。

その中で、更に上で書いたような、テンポ間を目一杯に使ったダンスでゆったりとした雰囲気を出しています。この2つが相まって、今までに感じた事のない力強さが生まれていました。メンバーが中央で『マンパワー』の主旋律を歌っているときにソロで動く場面。

深く、ゆっくりと腰を落として戻っていく振り付けの時の重量感は以前の高橋愛では見る事は出来なかったと思います。その間にステップを踏みながら動く所にしても同様です。『リズム』という面ではこの曲、決して見逃す事の出来ないものです。



□  色っぽい じれったい


この曲で見せる高橋愛の「ふわりとした浮遊感」とも呼ぶべき動きは特筆すべきものがあると思います。

特に、イントロの、体を前傾させて腕を回転させる場面、それに続く横のステップと腕を上下させる場面。まるで空間に浮いているような、例えるならパントマイムの『壁』を見ているような、ちょっと特殊な感覚に襲われます。

というか、ある意味パントマイムに似ているのかもしれません。しっかりとリズムを取って、そこに最後まで意識の行き届いた動きを乗せる。さっきから「イン・テンポ」と簡単に書いていますが、1回テンポが合ってもその次にテンポが外れていたのではイン・テンポになりません。イン・テンポでのダンスは、つまりはしっかりとリズムを刻んでいる事が出来ているという証しでもあるのです。

そして、繰り返すように、テンポの端から端までを使って神経の行き届いた振り付けをする事によって、密度の濃い、安定感のある動きとなり、それがある種の浮遊感を生み出しているのではないかと思うのです。



□  □  □


ここからまとめに入ります。

第2回で、僕は「実験」をお願いしました。AとB、2つのパターンで指の動きを確認して頂くためです。

お忙しい中で実験に参加して頂いた方には心から感謝しています。そしてその方々に1つ質問があります。AとB、どちらか難しかったですか?


分かり難い場合は、多分皆さん、実験の時に「利き腕」を使われたと思うので、「利き腕じゃない腕」でもう一度試されると結構分かりやすいんじゃないでしょうか。恐らくほとんどの方が「Bの方が難しい」とお感じになったのでは?

「指に常に意識を置く」事を余儀なくされるBパターンは、手拍子のように指で拍を打てばいいAパターンより難易度が高い筈です。僕の場合、Bパターンでは最初は指が固まってプルプル震えてました。スムーズに指を動かすには多少の練習が必要でしたね。


高橋愛は、以前よりは確かに動きも小さい場面があるし、決してスピーディとは言えないのかもしれません。でもしている事は今のほうが難しいのだ、という事を、実験に参加して頂いた方の『指』が証明しているのではないでしょうか。


その難しいダンスを、高橋愛はイン・テンポで踊っているのです。一貫して安定したリズム取りで動く事が出来ている。

高橋愛が。愛ちゃんが、です。

愛ちゃんのファンなら、誰もが知っていますよね。

彼女が昔、「リズム感がない」と言い続けていた事を。



□  □  □



リズム感がない、リズムに自信がない。

そんな女の子が、今では見事に、いや、「美事」に、何ら乱れる事なくリズムを刻む事が出来ている。

ここに、ダンスに対する弛まざる挑戦、ステージに対する飽く無き情熱を見ずして、一体どこに見ろと言うのか。


どれだけ高橋愛のダンスが変化を遂げようと、そこにいるのはいつでも、まっすぐな瞳のままの、「一生懸命な愛ちゃん」なのです。

今でもそう。 そして、これからも多分、いや、きっと、そうに違いないのです。



□  □  □



以上で感想は終わりです。

実は、上記のようなリズムを「外している」と感じた曲が数曲ありました。それに関してはまたおいおい、メロディと絡めて書く予定でいます。

こんな感じですね。今週の『リズム』の更新は、ここまでです。