祈り   

ステージの上で、高橋愛が歌を歌っている。
ただ一人で。
携帯電話を両手で握りしめて、
その手を、顔にすりよせるように。
まるで祈るように。



祈りの歌が、ホールに響き渡っている。
小刻みに、でも確かな輪郭で震えるヴィヴラートが、
その祈りの悲しみの深さを伝える。



彼女はステージの上で、
常に祈り続けているように見えた。
台詞の時も、ダンスの時も。
叫び、つぶやき、
うつむき、空を見上げる。
手を掲げる。
まるで祈るように。



「信じて」と、
彼女が歌う。
信じる事の難しさ、
信じて生きていくことの難しさを、
僕は知っている。



「信じて」と、
彼女が歌う。



歌い終わった後、彼女は
両手を、顔にすりよせるように近づける。
携帯電話を持ったまま、
泣き顔を隠すように近づける。



信じる。
信じる。
だから、そんな悲しい顔はしないでくれ。
あなたのそんな顔を、僕は見たくない。



僕の祈りは、果たして届くだろうか。
あなたがいつも、笑顔であり続けますように。