路上
終わりの見えない歩道を歩いている
夕暮れに伸びる影
どこかで鳥が最後の鳴き声を響かせている
伸びる影の先に彼女がいる
前を歩く彼女の姿はあまりにも透明で
ふいに吹き抜ける風で簡単に見えなくなってしまったりする
あわてて彼女の姿を探すと
次の瞬間僕のすぐ横にいたりする
やはり限りなく透明で
こんなに近くにいるのに触れる事も出来ない
少し離れたところで揺れている夏草
夏草と彼女の揺らめきが一つになる
また風が吹き抜けて
彼女の姿が見えなくなる
彼女は夏草の上に佇んでいた
その透明な姿が夕日に反射してオレンジ色に光る
闇に落ちる前に最後の輝きを見せる夏草の緑
夏草の上空で最後の音色を響かせる鳥
そして透明な彼女が夕闇と共に消えていく
最後に見せてくれたのは、夜明けのような笑顔
閉じていた目を開ける
おびただしい数の人の流れ。灰色。狂騒。冷たい風。
街と現実に引き戻される
逃げるために歩き出す
目を閉じることの出来る場所を探して
どこかで鳥の鳴き声が聞こえた
その音色だけが、あの時と同じだった。