夕方から雷雲が僕の住む街にやって来て、断続的に大きな光と音を落とし続けています。
僕は、薄暗くなって輪郭を浮き上がらせた光と音の中で帰宅の途に着いていました。
ただ一目散に自分の部屋へと向かっていました。物凄く怖かったからです。




雷が怖くない時期がありました。
打たれたい、と思った時期。
雷って、音のわりには意気地がない。そう思った時期。
青い光や、一瞬だけ紫色に変化する黒い雲を、綺麗だ、としか思えない時期がありました。




今は、凄く怖い。
誰かの姿が見えなくなるのが、
見られなくなるのが、
永遠に視界から消え失せるのがこれほど怖いと思った事はありませんでした。




鳴り止まない轟音の中、家に帰って来ると数日前に注文していたペンダントが届いていました。
自分のために買ったペンダント。小さな、四角い銀の枠の中には、ムーンストーンという石が入っています。
乳白色に透けているその石は、身に付ける者の感受性を高める力があると言われています。
だから、買いました。




手に取ってみるとその石は、福井で見た雪を思い起こさせるような、透明で柔らかな白色をしていました。
その白色は光を受けると、その光を増幅するように自分自身の色とし、輝き出します。
その石を、窓辺から雷雲へ向かってかざしてみました。




もう暗くなった空一面を点滅させ続ける激しい光は、ムーンストーンを通して静かな輝きに変換されました。
なんだか、雷への恐怖が少しずつなくなっていくのが感じられました。
でもそれは昔のような、単なる自棄から来るものではなくて、
新たな輝きがある事を僕に知らせてくれた誰かをこれからも見続けていきたい、
そういう、ちょっと消極的な決意が、大きな恐怖を弾き返してくれたのだと思います。