tombouze2006-01-04





□ 紀行文



琵琶湖に沿って走る湖西線の、車窓からの眺めが真っ白に変わったのは数分間の眠りから醒めた時でした。
目を閉じる前までは冬の薄い緑の向こうに、夜明けの、暗くて静かな湖が見えていたのに。
白い雪のかさは急速に増していき、高さはすぐに1メートルほどに達しました。
滋賀、そして福井の山間に入るとその雪の壁は更に高くなって、2メートル、3メートル。もう雪以外にはほとんど何も見えない。
しばらくして福井平野に出ると次第に低くなっていったけどそれでも、福井駅についても数十センチの積雪が残っていました。
よし。これなら見れる。やっと、見たい世界が見れる。




○ 1日目











着いた!




晦日の朝10時頃に着きました。そして帰るのが元日の夕方5時。
それなりに時間があるように見えますが、実際はそんなにはありません。お店の「早閉まい」を考えないといけないので、
とりあえずチャッチャカ動かないとスケジュールがこなせない。  スケジュールて。
まずは泊まる予定のホテルへ行って大きな荷物を預けて、すぐに「なかむら」へ向かいました。
思った通り、いや思ってた以上に雪で歩きにくい。歩道はほとんどの場所で降り積もった雪に占領されていて、
どうしても車道を歩かざるを得ない。車の通りがそれなりにあってギリギリを通っていくのが結構怖かったりしました。




「なかむら」に着いて、チーズケーキを買って、レジの右側の壁に飾られている愛ちゃんのサインを確認して。
よく見ると、そのサインに貼られてる愛ちゃんの写真が以前見た時と変わってました。今回写真には撮ってないんですが、
定期的に変えてるのかもしれません。貼りっぱなし、置きっぱなしじゃなくて、ちゃんと丁寧に扱ってくれてるんだなあって、
ちょっと嬉しくなりました。




外へ出てからしばらく歩いて、小休止できる手頃な場所を見つけて、











缶コーヒーでカフェタイム。
このチーズケーキは本当にすごく美味しいです。年取るにつれて生クリーム系やチョコ系が重く感じるようになった今日この頃、
これくらいの甘さがちょうどいい。色合いも綺麗なクリームで見てるだけでも楽しい。雪を見ながらゆっくり味わってました。
それを食べ終わると駅前まで戻ってロフトや紀伊国屋や無印でいろいろと散策。ところで僕は「向こうはどえらく寒いだろうな」、
と思ってたのでダウンにマフラーにニット帽にズボンの下には股引(爆)という重装備で福井に向かってたんですが、
そんな格好をしてるのは僕くらいで地元の人(だと思う)でそんな厚着してる人はそんなに(というかほとんど)いませんでした。
Tシャツにパーカーの人とかいるし。さすがにそれは寒いと思うんだけど。でもマフラーしてる率は本当に少ない。




先に駅前のお店を見て回ったのは、夕方の6時くらいには閉まってしまうのをネットで確認してたからです。
特には何も買いませんでした。ロフトでフォーク買ったくらい。なんでそんなの買ったんだろう・・・。
そうしてしばらく街中をうろうろして、「あの場所」へ向かう電車の発車時刻が来るのを待ちました。
1時間に1本か2本位の普通列車。あらかじめ時刻表で確認してメモしてました。今回は時刻表をメモする事が多かったです。
で、「あの場所」という書き方。僕はいつも地名を出していいのかどうか迷うんです。「まあいいか」と思って出す時もあるし、
「出さないほうがいいかな」と思って出さない時もあるし。今回は「あの場所」みたいな書き方に統一しようと思います。




午後2時前に乗車。そして数分後、駅のホームに降り立ちました。
やっと見れた、雪の町。











駅を出て歩き出す。すると、音が違う。
雪を踏む「ギュ」「ギュ」という音が、目の前で大太鼓を打ち鳴らされているみたいに心の奥底まで響いてくる。
ちょっと凄い。なんだか歩くのがもったいない。音を確かめるように足元を見ながらゆっくりと歩を進めて行きました。
目を足元から上げると、ずっとずっと見たいと思っていた、雪の町。多分初めてここに来た時からずっと見たかった町の姿。
来て良かった。ほんとに。




と、お腹が空いていたので、開いているかどうかわからないヨーロッパ軒へ。
ネット調べた時に総本店が大晦日休みらしかったのでここの支店も多分そうだろうなあ開いてないだろうなあ、
と期待しないで行ってみると、あら、開いてる! そうか、店によって違うのか・・・。
でもよかったよかった。早速お店に入ってソースカツ丼をセットで注文して食べました。よし、美味しい!
・・・そういえば、普通のカツ丼(玉子とじカツ丼)、ここ数年食べた記憶がないなあ・・・。




そして相変わらず胸やけを起こす。でも今回はここで食べるの終わりません。
「年越しそば」を食べるために、愛ちゃんがラジオで口にした『つるきそば』へ。
ヨーロッパ軒が面している通りを北へ数分歩いた所にあります。そそくさとお店に入って「きつねそば」を注文。
ほどなく出てきたおそばを見てちょっとビックリ。福井の「きつねそば」は、お揚げを刻んで入れるのか・・・。
かまぼこも同じように刻まれてる・・・。ああでもなんか食べやすくてこういうのもよさげかも。
というかこの時点で胸やけ起こしてるのでここのおそばは最早縁起物です。胃の容量を完全にオーバー。
這いずりながら店を出る。く、苦しい・・・。




それから5時くらいまであちこちを這いずりながらブラブラして、雪の写真をパチパチ撮ってました。
この日はまたここへ戻って来るつもりだったので一旦夕方福井駅へ帰って、そしてホテルにチェックイン。
少し部屋で休憩してから、居酒屋を探すために再び街へと繰り出す。なんだか、せわしない・・・。
晦日は紅白があったのもせわしない理由ですね。始まる7時20分(だったかな)までにはホテルに戻っていたかったんです。
居酒屋さんは、大部分が年末年始の休みに入ってました。片町まで足を伸ばしてみたんですが、もう、閑散。
あんなに閉まってる夜の片町を見るのは初めて。それでもぐるぐる探してみると数件は開いていたので、
その中でひなびた雰囲気を出していた炉ばたのお店に入って、軽く飲みました。




ほとんど酔わずにお店を出て(胸やけ継続中)、ホテルへ戻ってシャワーを浴びて、お茶を飲みながら紅白を鑑賞。
もんのすごい睡魔がやってくる。なんとか娘。の出番までは持ち堪えました。娘。の曲が終了するのとほぼ同時に、ダウン。
もちろん家で録画予約はしてました。が、もう目が開かなかった・・・。前の夜に1時間しか寝てなかったんです。
なので、ひとしきり、寝る。
そして、21時半くらいに目を覚ましました。ちょっとスッキリ。すぐに外出の支度をして、ホテルにキーを預けて再び福井駅へと。
21時47分発の普通列車に乗り込む。




えちぜん鉄道」が元旦の臨時列車を出すのは事前に調べてわかっていました。夜中の1時51分に最寄駅に列車が来るはず。
これがなかったら、こんな遅くにここまで来ようとは思わなかったと思います。福井駅まで歩いて帰らないといけなくなりますから。
いや、たとえ歩いて帰ることになっても、やっぱりここへ来ていたかも。でないと、来た意味が半減してしまう。
とりあえず大通り沿いの『つぼ八』に入って、2時間弱、その時が来るのを待ちました。
店内では90年代のJ−POPがBGMで流れていて、微妙に懐かしく思いながら軽めのアルコールを飲んでいると、
ほぼ11時くらいにある曲が流れてきました。何故「ほぼ」なのかというと僕の持っている時計は機械式なので、
時間は普通に数分狂ってます。だから正確な時刻はわかりません。携帯電話は、この時は持っていたくなかったので、
ホテルに置いたまま持って来ていませんでした。




ラストキッス』が流れて来ました。もちろん、オリジナルです。
でも、ぼんやりと酔いの回った頭の中には、ステージでこの曲を歌う愛ちゃんの姿しか出てきませんでした。それしか浮かばない。
ラスト1時間前に、愛ちゃんのラストキッスを頭の中で燻らせる。僕にとっては、この上なく贅沢な時間でした。
そして時計の針が11時45分を示した頃、腰を上げて表へ出ました。ちょっとやりたかった事があったんです。











できればお誕生日にしたかった事です。でも9月14日は平日で多分来れないので、キリのいいこの日にしました。
今年は愛ちゃんが20歳になる年です。これから、愛ちゃんの20台としての10年が始まります。
そして、10台に終わりを告げる年でもあります。彼女が夢を追い、努力をして、少しずつ形にしていった10年間。
10台の10年間と、20台の10年間。
その狭間に立つ。大きな区切りを越えていく。また新たな日々へと向かっていく。
それを、彼女が巣立っていった「この街」の、「あの場所」でしたかったんです。




数分間、目的地に向けて足を進めました。
さすがに外には誰もいません。風もない。車も通り過ぎない。しんと静まり返っている。
左と右から別々に、違う寺院から、ゆっくりとした間を開けて低く静かに聞こえてくる除夜の鐘。
足元では、雪を踏みしめる音。
そして目の前には、あの建物。




あまりに建物の前で佇んでいるのは気が引けるので、お昼にここへ来た時にちょっと離れたあたりに、
建物を見渡せる場所を見つけていました。そこへ向かって建物を通り過ぎていく。
暗闇に浮かび上がるその佇まいが、昼間とは違って影を伴っているのですごく立体的で、あまりに現実的で、
今までに見た事もないくらい、過去をリアルに映し出してくるようで、なんだかいてもたってもいられなくなって、
完全に通り過ぎた時に思わず口の中で「愛ちゃん・・・」という言葉を形作ろうとした、
その瞬間、






背後で炸裂する音。


目を見張る。振り返る。


更に音が張り裂ける。連続して空気を切り裂いてくる。


花火だ。


花火が打ち上げられている。


遥か彼方、遠くに見える。上がっては下りていく赤い光。


轟音は止まらない。終わらない。


繰り返し打ち寄せる。





『愛ちゃん。』





打ち鳴らされる除夜の鐘。


鐘の音と花火の音がシンクロして重なっていく。





『愛ちゃん。』





白い息の向こうに見える赤い光。


寒さと、寒さではない何かで光がぼやけていく。にじんでいく。





『俺はずっと見てるから。』





折り重なる音が周りを包む。


影はより黒く、光はさらに白く浮かび上がって現実を越えていく。





『俺なりのやり方でずっと見てるから。』





一瞬、風が吹く。

民家の屋根から雪が落ちる。大きく崩れる音。地面を叩き付ける音。





『どんな時でも、必ず見てるから。』





その音が沈むとまた鳴り響く除夜の鐘。


その後ろからは深奥を揺さぶる花火の音。


風の音。雪を踏みしめる音。





『愛ちゃん。』





全ての音が、全ての影が、光が、色がひとつになっていく。





『愛ちゃん。おめでとう。』






この町が、愛ちゃんの10年を祝ってオーケストラを演奏してくれたよ。










○ 2日目



えちぜん鉄道」に乗って福井駅に戻ってきたのが午前2時過ぎくらい。そこから、間髪入れずに初詣へ行きました。


佐佳枝(さかえ)神社(http://sakaenoyashiro.com/)です。


福井ワシントンホテルに隣接している、というかほぼ敷地内にある、ぐらいの勢いでくっついてるこの神社。
実際ホテルと神社は棟続きで廊下で行き来できるらしいです。なんでこんな造りになってるのかは分からないんですが、
福井に行くたびに「変わってるなあ・・・」と思ってました。お社が階段上って2階(というのかな)にあったりするし。
ここで初詣をしました。えらい混んでて40分くらい待ったかな。さ、寒い。寒さで堕ちそう・・・。
やっと自分の番を終えて、ダッシュでホテルへ戻りました。あ、それからこのホテル、フロントの方の応対がすごくよかったです。
ホテルニューユアーズ(http://www.yours-hotel.co.jp/newyours/)という所に泊まりました。
僕が泊まった時はちょうどリーズナブルなプランがあったので、料金の割には設備が充実していてかなり満足度が高かったです。




部屋に戻ってバタンキュー。チェックアウトが11時までなのでギリギリまで寝て、起きてシャワーを浴びて部屋を出る。
ホテルを出て、再び「あの場所」へ。・・・何回行ってるんだ・・・。
実は前日におぼこいさんhttp://blog.livedoor.jp/sodapop_74/)から携帯にメールを頂きまして、
「そこのショッピングセンターに明日、マジックレストランに出演したムッシュ・ピエールが来るよ」と情報を下さったんです。
そのメールを受け取った時、僕はお土産やさんでいろいろ物色していて、メールを見て思わずその場で爆笑しそうになりました。
ナイスタイミング(笑)。これは見といたほうがいいな、と思って。で、もう一度電車に乗ったんです。




11時半からと14時からの2回公演でした。11時半には間に合わなかったので、それまでブラブラと時間を潰してました。
んで、そのブラブラで見つけたのが、







ずっと閉店したままだった「五月ヶ瀬」のお店が再建されるみたいです。新築工事をしてました。
個人的にすごく嬉しいです。初めて五月ヶ瀬を買ったのがこのお店だったので。
おととしかな?、つぶれちゃってるのを見た時は結構ガックリしました。もうここでは買えないのかあ、って。
でも今度来た時はちゃんとお店が出来てそう。またここで五月ヶ瀬を買えそう。よかったあ。




そんな風にあちこちウロウロして、マジックショーが始まる30分くらい前にショッピングセンターに戻りました。
そして2時から、ショーがスタート。







かなりの人だかり。ちゃんと見れる場所は既に埋まってました。ズボラかまして時間ギリギリまで書店うろついてた自分が悪いんですが。
2階と3階を結ぶ階段の、それも人と人の頭の間からやっとこさ見れました。うお!でもおもろい!
そういえば、プロのマジシャンのマジックを生で見るのって生まれて初めてかも。見た記憶、ないなあ。
目の前で(離れてるけど)ありえない現象が繰り広げられるのには、もう呆然とする以外にないというか。
「なんでだなんでだなんでだ」とずっと半笑いで眉間に皺を寄せてました。
で、ちゃんと「う〜ん、トレビア〜ン♪」もしましたよ。実際、本当にトレビアン。30分くらいのショーだったのかな。
すごく短く感じました。楽しかったです。僕もひとつくらい、覚えるかなマジック。見せる人、いないけど・・・。




後は電車の時刻を待って、そうするともういい時間です。一旦福井駅で下りてお土産を買って、そして帰途につきました。
それにしても毎回、何しにあそこへ行ってるんだか自分でもいまいちわかってなかったりするんです。考えはするんですが、
「いやでも」とか「そうじゃない」とか自分の中でいろいろツッコミが入るので、結局は分からずじまい。
でもやっぱり行きたいし、行ってよかったな、とも思うんです。だからまた何かにかこつけて行くんだと思います。
とにかく、雪の「あの場所」を見れて、念願が叶ったのですごく満足した旅になりました。