ピアノが部屋に来た当初は教本がまだ手元になかったから、
鍵盤の上で指が所在なさげにただウロウロするばかりだった。
ドなのかレなのかミなのかさえ確信が持てない、
それくらいたどたどしく、ひとつずつ鍵盤を押して、頼りなくて細い音を出してみたりする。
指がある鍵盤を叩いた時、その音を聞いて、瞬間動きが止まった。どこかで聞いた事がある音だった。
とても大切な音だったような気がした。記憶を辿ってみる。
そうだ。『LOVE』だ。
『LOVE〜Since 1999〜』の、最初の音。
それからちょっとだけ必死になって、次の音を探す。
見つけると、また次の音。また、次の音。
5つ。
そして、9つ。
イントロダクションの、合計14のピアノの単旋律。
時間をかけて探して、なんとか見つけて、指遣いなんか目茶苦茶でも続けて繋げて弾いてみる。
最初はつまづいて全然前へ進まないメロディが、何回か、何十回か繰り返すうちに、流れ出す。
僕の目の前に、あのメロディがいる。
繰り返し、繰り返し、そのメロディを弾き続ける。
そうだ。 確かに僕は、
僕はこうやってひとつずつ探し続けてきたんだ。
彼女は、この曲をどんな表情で歌うんだろう?