夜公演の時は、なんだか不思議な気持ちになっていた。熱で頭がボンヤリしていたからもしれない。
自分の体の調子は悪かったけど、コンサートはとても楽しかった。楽しませてくれた。
だからなんとなく、このまま続いていくような気持ちになった。
このまま、あの話はなかった事にして、適当に、大雑把に、なあなあで、ファジィな感じで、なんだかんだで、秋も、来年の春も、夏も、このまま続いていくんじゃないかと思ってしまった。
どうせ、世の中なんて適当ずくめなんだから、ひとつくらい適当が増えても構わないんじゃないか。
「二人のいないステージ」を時折想像してしまうのは、単なる僕の、憎むべき思い込みなんじゃないか。
楽しいコンサートを見ていると、そんな気持ちにさせられてしまう。
でもそんな気持ちは、コンサートの最後の最後、更に最後に回された二人の映像で断ち切られる。
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ガキさんは、ステージ上で常に気丈だったような気がする。
今まで、5期への思いを誰よりも饒舌に、楽しげに語っていたのはガキさん
アロハロDVDのオーディオコメンタリーで「4人の思い出言って、と言っても言いきれないよね」と切り出していた。
とても嬉しそうに喋っていた。 なら誰よりも、溢れる気持ちをステージに曝け出してもよさそうなものだ。
でもガキさんは、乱した姿をステージでは見せなかった。
さいたまでは、微笑を浮かべて、コク、コク、と小さく頷きながら、二人の話を聞いていた。
彼女はこの先、二人の笑顔を、自分も含めて三人分の笑顔をするだろう。
渾身の力を込めて。
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「誇り」とする時が来るのだと思う。
絆の強さ。分かち合った喜びや悲しみ。
そして、失われる事に対する苦しみ。
それらを「誇り」とする時が来る。
その「誇り」は、モーニング娘。に大きな力を与えるだろう。
誰よりも大きな声で五期の絆を語っていたガキさんだから、
誰よりも「誇り」を手にする事のできる人なのかもしれない。
そして、その「誇り」の道筋を振り返ってみれば、
そこには、4人の手を繋いだ姿がある。
いつまでも。いつまでも。
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秋のコンサートには、もう二人の姿はないのかもしれない。
それがどうしようもなく寂しくなった時は、ふと、ガキさんの顔を見てしまうだろう。
ガキさんは、笑っているだろう。三人分の笑顔を、渾身の力を込めて。
彼女の笑顔は、二人の笑顔だ。
そして二人の笑顔が、彼女の笑顔を更に輝かせているだろう。