細い、曲がりくねった道を歩いていました。そこは藤の絡まる神社へ続く、そこに住む人達以外あまり通らない道です。
両手を伸ばせば、左右の生垣に手が届いてしまいそうな道。その右手にはデジタルカメラを持っていました。




小さな十字路を横切ろうとした時、左手の道から、幼稚園くらいの女の子達が4人、歩いてきました。
4人が道の横幅いっぱいに並んで、お互い同士手を繋いで、楽しそうに歩いて来る。
その中の一人が「こんにちは!」と、僕に声をかけてくれました。
そして、僕が横切った後ろを楽しそうに話しながら、右手の方へ進んで行きました。




声が、出なかった。
かすれた声は出ていたかもしれないけど、ちゃんと「こんにちは」と言い返してあげられなかった。
目を見て言ってあげられなかった。
笑っていたつもりだけど、笑えていたかどうかもわからない。笑いたかったのかどうかもわからない。
デジタルカメラをその場に叩き付けたくなった。




一歩踏み出せる機会だったのに。この場所なら、それが出来たのに。この場所は、踏み出すのにふさわしい場所だったのに。
右手に消えていく元気な声。だんだん遠くなっていく。一瞬、追いかけようと思った。もう一度声をかけて、
「カメラ、撮ってもいいかな」って笑顔で言いたかった。その屈託の無い4人の笑顔を撮りたかった。
ちょっと話をしてみるのもいいかもしれないと思った。
声はもう聞こえなくなっていた。




目の前を流れて行く風の音と遠くで過ぎていく車の音しか聞こえなくなっていた。
風の向こうに姿を探すしか、もう出来なかった。
少しずつでも変わっていってるから、と、言ってもらうしかなかった。
でも、その瞳を見つめる権利を今は持っていないから、
伏し目がちに頷くしか、僕には出来なかった。
その視線の先には、名前の知らない、紫色の小さな花が咲いていた。






□  紀行文


前の日は夜10時に布団に入って、でも全然寝付けなくて、意識を失ったのは次の日の1時になってから。
そして2時に起床。1時間しか眠れなくて若干フラフラ気味で、でもそこは堪えてつばめさんのラジオを聞きながら身支度。
3時くらいに出発。車で走り出してすぐにメモ帳と福井の地図を忘れてきたのを思い出したけど、いいや向こうで買えば、
と取りに帰らずそのまま走り続ける。メモ帳に2つの場所の住所を書いているのをこの時点で完全に忘れていて、
後で思い切り後悔することになります。




大阪と京都を滞り無く抜けて滋賀へ。びわ湖沿いの道路に出たところで、コンビニ休憩。



びわ湖の向こうに朝日が昇ってました。
コンビニで軽食を買って出発。
後は滞り無く福井の嶺北に到着。到着したあたりから眠くて眠くて運転してられなくなる。
こりゃさすがにヤバい、と、通り沿いにある店の駐車場に入って(何の店だか覚えてないほど眠かった)30分ほどバタンキュー。
あれほどバタンキューという言葉が似合う眠り方もないだろう、というくらいにバタンキュー。
起きて再び走り始めたのが、大体9時前後でした。




9時半あたりに福井市のメインストリートに到着。春江には昼過ぎに行くつもりなので、市営の駐車場(だったと思う)に車を預けて、
そこから、『運動公園』まで歩いて行く。
愛ちゃんがヤンタンで言っていて、内容自体はかなり忘れちゃったけどその『運動公園』という場所は頭の中にずっとあって、
行こうと思ってたんです。でも家に地図とメモ帳を忘れてる。メモ帳には『運動公園』の住所が書いてありました。




確か前日家で地図を見た時に『足羽山公園(http://www.city.fukui.fukui.jp/kankou/guide/asuwa/)』が近くに見えてた気がして、
なら十分歩いて行けるだろう、わからなければコンビニで地図見ればいいし、と歩き出した、はいいんですが、もうえらい大変。
まず眠い。睡眠時間は夜の1時間と車の30分だけ。
その上暑い。最初はそうでもなかったけど段々日が昇ってきて暑くなってくる。
更に、当然道に迷う。『足羽山公園』の近くにあるはず、しか覚えてないんだから当たり前。コンビニを探しても、あたりに全然
見当たらない。通りがかった交番の前に『運動公園』まで載ってる地図があったのでそこで確認してまた歩き出しても、
そこまでの道がえらく入り組んでいる、というか、まっすぐ一本道で『運動公園』に辿り着けないんです。
あっちこっち曲がらないとダメで、ちょっとこの頭では覚えられない。メモ帳に書いとければ書いたんですが、そのメモ帳は家にある。
メモ帳を買おうと思っても、あたりにコンビニがない。




うまい具合に、というか悪い具合にいろいろな要素が回りまわって、これはひょっとして福井で行き倒れるのか、ぐらいの勢いで
ヘーコラ言いながら歩いていると、ちょっと郊外っぽく街が開けてきて、本屋さんを発見。もう半泣きで本屋さんに入って
地図を確認。もうかなり近くまで来ていみたい。この時は心底ホっとしました。
『運動公園』に着いたのが11時半くらい。疲れた・・・。



この公園、以外に広くて球場なんかもありました。どうしてこんな、手前にコンビニ袋が転がっている画像なのかというと、
写真撮ろうとしてた時にちょうど福井行きのバスが目の前バス停に停まったので思わず飛び乗っちゃったから。
帰りも歩く気にならなかった・・・。
この『運動公園』、その公園自体で残像見て泣いた、とかよりも、その公園の愛ちゃんとの関係性が、辺りを歩いてみて
かなりわかったのでそのほうが印象に残ってます。
時々メールを下さる福井在住の方が今回またいろいろ教えてくれて、実際現地で見て、なるほど『二人ゴト』のあの言葉は
ここから来てるのかもしれないな、となんだかパズルのパーツが埋まったような気持ちになりました。
そのパーツの写真は撮ってあるんですが、なんとなくアップするのが憚られて。




さすがに、あまりに小さい頃の愛ちゃんについてウヒャウヒャ書くのがなんかどうもちょっと。運動公園の画像だけにしておきます。
とにかくすごく印象深い場所でした。今度は車で行ってみたい。いや、車で行ってるんですが。
メールを下さる方へ、いつもありがとうございます。ちなみにまた後で登場しますので・・・。
さっき書いたように、福井駅まではバスで帰りました。




で、福井駅からまた歩き出す。もう疲れ果てている。生きて大阪へ帰れるんだろうか・・・。
あ、福井駅は改装工事中でした。



ここと反対側の「東口」に出て延々歩く。行き先は「愛ちゃんのサインがある『なかむら』」。
これが後悔の2つめ。メモ帳に書いていたもう1つの住所がこの『なかむら』でした。
でも「○○何丁目何番地」だったとして、「○○」の部分は覚えてたので、まあなんとかわかるだろうそんなに狭い道には
ないだろうし、ってこの「まあなんとかわかるだろう」に何回泣かされてきたことか・・・。




さっきの『運動公園』は郊外を歩く感じだったんですが今回は住宅街。一区画ずつグルングルン回る。
見つからない。当たり前。ほんっとに当たり前なのに、一生グルングルン回るんだろうな・・・。
いきなり「ヨーロッパ軒みゆき分店」とか出てくる。それはそれで面白いけど、笑えない・・・。
僕が探索した順番は、○○の1丁目→2丁目→3丁目→4丁目の順番。それぞれの丁目を細かく細かく探して、
『なかむら』があったのは4丁目。最後の最後。回りまわって最初にいた場所の方が近いじゃねえか、ぐらいの勢いで運が悪い。




『なかむら』を見つけた時は思わず笑みがこぼれました。日本にいてオアシスを見られるとは思わなかった。
もうサハラ砂漠に行かなくても済みます。東京ディズニーランドよりもワンダーです。
早速入る。す、涼しい・・・。  で、サインはどこに・・・。
・・・あった! 良かったあ。うおー、愛ちゃんの直筆サインって始めて見るかも。





とりあえず何か買うことにしました。ケーキはすぐ食べないといけないし、僕はもうこの年なので・・・うう・・・かなり
小食になっていてケーキを食べてからその後春江でソースカツ丼は確実に厳しいのが目に見えてたので、家に持ち帰られる
マドレーヌやらスイートポテトの詰め合わせ(1500円)を頼みました。詰めてもらっている間に、店員さんにサインを
写真に撮っていいか聞いてみることに。き、緊張する。こういうのメチャクチャ苦手、でも言わなきゃここで男の子なんだから!




「あああああのあのあのサイサインンサとととととてとてとて撮っててとてとてと」
「いいですよ♪」




撮った!
『ケ→キ』が素敵すぎる!『−』をわざわざ『→』にしてるのは今日びの流行りなのか?
・・・あれ?右横に何か書いてある・・・。
「チ→ズケ→キ  大好き(はあと) ですョ」 ←ケとキの間の矢印は想像



「・・・すいません、チーズケーキ1つ追加で・・・。」
「お持ち帰りまでどれくらいかかりますか?♪」


・・・12時間って言いそうになった   ←家に帰ってから食べる気でいる(実際は1時間と言いました)




店の外に出て、どこか近場でケーキを食べられそうな場所を探す。ああ、余計な労力が・・・。
ほどなくして公園を発見。そこで食べようとして、でもその前に・・・。



・・・ブランコの上にセッティングしてみました・・・。
・・・セッテングしてる時の姿を想像するだけで氏にたくなってくる・・・。
色あいが淡くて、とても綺麗なチーズケーキでした。写真撮った後その場でカブリつきましたが、すごく美味しかったです。
でも、もうお腹いっぱいになってもた・・・。




福井駅に戻って『なかむら』で買った詰め合わせをコインロッカーに入れて、今回行こうと思っていた場所に1つ、
「愛ちゃんが通ってたバレエ教室」へ向かう。これ、以前に何回か書いていて、今年の福井コンサートの時も題材として
取り入れてました(http://d.hatena.ne.jp/tombouze/20050314
コンサートを見た後にこのバレエ教室へ行って、愛ちゃんコンサートで最後にステージに出てきてバレエみたいなお辞儀してたから、
そうだ、それを絡めて感想の締めにしようと思って、最後にこう書きました。


>おそらく、この日のコンサートは一生忘れないでしょう。

>ビルの階段をあわてて駆け上がって行った、幼い日の誰かの残像と共に。


これを見て、先ほどのメールをくださる方が違和感を感じたらしいんです(このバレエ教室の場所もこの方が教えてくれました)。
その違和感についてのメールは、要約すると、こうでした。



そこは愛ちゃんが中学生になってから通ってた教室です。
「幼い日」というのはちょっと違うと思います。

・・・残像、間違えてるじゃん!



僕は小学校3、4年生あたりを思い浮かべてました。中学生で「幼い」はちょっと無理がある。
僕の年齢からすると特に無理はない気もするんですが・・・うう・・・小学生よりも中学生の愛ちゃんのほうが
その顔立ちがわかる分リアルに残像が浮かぶし萌えるので、もう一度教室に行って残像の修正を図りに行きました。




教室のあるビルが見えてくる。あれ〜、ビルの前に人が何人かいる。これじゃあ立ち止まって眺めるとかできないなあ・・・。
チラッと見るだけにして、そのまま素通りしました。う〜ん、また次の機会にでも。
そうかあ、ここには中学生の時に通ってたのか・・・。
で、もう一度福井駅に戻って、街を少しだけブラブラしてました。ちょっとだけ写真も撮ったけど、家に帰ってきて確認してみたら
こりゃ下手過ぎて見せられん、という写真だらけだったので路面電車の写真だけ。




後はロフトに入ったり、だるまや西武に入ったり。だるまや西武ではジャムスプーンを買いました。


La Cucina Felice(http://www.lacucinafelice.com/)  ←ここの


コインロッカーに戻って荷物を取り出して、駅前のお店で五月ヶ瀬を買って、福井市内の散策はこれで終わり。
車で春江に向かいました。寝不足でかなり頭がパンパンになっててボーっとしてる。
春江のとある場所に車を停めて、ヨーロッパ軒春江分店へ。
外は暑いし、ビールが飲みたい。絶対美味しいだろうなあ。でも、ここは我慢、我慢・・・。
今回食べたのはカツとメンチカツがセットになってる「ミックス丼のB(確かBだった)」。




・・・やっぱり、チ→ズケ→キが効いている・・・。いや、でも美味しいです。やっぱりこのカツは美味しい。
このカツ丼を食べる時にふと、もうちょっと若い時分に愛ちゃんのファンになってたらな、なんて思ったりします。
このカツ丼をガツガツ食べられる年頃の時にファンになってたら。どうだっただろう。




未来がわからないのと同じように、過去に通り過ぎなかった道を探す事なんて不可能だから、思ったところで、
そこに今までよりも楽しい何かを見出したって詮無いのは百も承知なんだけど、でもせめてこのカツ丼をなんの躊躇いも無く
ガッツリと平らげてみたいな、ってなんとなく思いました。多分食いっぷりは、愛ちゃんより悪いかもしれない。
と言っても、そんなに年でもないんですけども。




いつものように胸やけを起こしながら店を出て、いつものようにフラフラと彷徨う。んですが、
一応今回はあの場所でしたい事がありました。そんなにごたいそうな事じゃないんですが、どこでもいいので
神社に行ってお参りしたいなあと考えていました。春江のどこかの神社。
大通り沿いの交番の前にある春江の地図で神社の場所を確認してみる。でもどうもわかりにくくて、そこから書店へ足を向けて
地図を見つけて探しても、どうも要領を得ないので、なんとなくそこかな、という場所に向かって歩きだしました。




藤鷲塚(http://www.fuku-e.com/kankou/detail.asp?t=k&pid=10000120
リンク先に白山神社、と書いてはいますが境内というにはとてもとても小さな場所です。
実際、一度場所を見落として通り過ぎてました。でも見つけてそっと入ってみると、その小さい、影を帯びた雰囲気や
屋根にびっしりと低く垂れ込めて、その場の空気を更に凝縮している藤の枝がとても落ち着いて、しばらくの間、そこで何するでもなく
歩を少しずつ、前に出したり後ろに引いたりしていました。




しばらくそうしてから、お賽銭を入れて、手を合わせてお祈り。愛ちゃんが健康で、そして幸せでありますように。
そして、今度のファンクラブツアーに当選しますように。
僕は久しぶりに、本当に久しぶりに自分について、自分のために願いを込めて祈りました。この日は風が結構強くて、
頭上ぎりぎりと言っていい場所にある屋根から藤の葉がかすれるサラサラとした音が絶え間なく聞こえてきて、風の音と
藤の葉の音を聞きながら、そして目を閉じながら僕は自分自身の声を聞いていました。




高橋愛を見つめ始めて、少しずつだけど自分が変化しているのが自分でなんとなくわかる部分があります。
自分について何かを祈るなんてもう長い間しなかったし、もし数年前に、今日の冒頭で書いたようなシチュエーションで
女の子達に遭遇しても、多分無視するかのようなそぶりを見せた気がするし、今みたいに、そういう昔の自分を垣間見て、
腹立たしくなったり後悔したり、情けなくなったり、
空をもっと空として見るようになったり、花をもっと花として見るようになったり、
高橋愛を、もっと、高橋愛を見るようになったり。




僕がこの場所へ来るのは、「頷くため」。
今、自分がいる地点に対して、そして、これから進もうとしている先に対して、
そして、高橋愛が進もうとしている先に対して、小さく頷くために、
僕はここに来ているのかもしれないな、
合わせていた、手とまぶたをゆっくりと離しながら、そんな風に考えたりしていました。






そんなこんなで夕方。はっきりと眠い。もう眠い。完全に眠い。
足どりもおぼつかない状態で車に戻って、またバタンキュー。1時間くらいそのまま寝たかも。
辺りはもうかなり暗くなって来てたので、「そろそろ帰るかな・・・」。
正直帰りたくはないんです。第一、疲れとるし。ほんっとに、春江でアパートとか借りたいなあ。別宅として。
そういえばこの日書店で「るるぶ福井」を見てて、春江にも小さな旅館があるのがわかったので、今度はそこに
泊まってみたいなと思ってます。




名残惜しいけど、帰宅の途につきました。晩ごはんは、この時全然お腹が減ってなかったので(むしろまだ胸やけしてた)、
京都に入ってからラーメン食べました。
その京都あたりからヤンタンが始まってたので車の中で笑い転げてました。それと同時になんだか妙な気分になったりとか。
あそこにいた人が、ここで話してる。あの場所で笑ってた人が、今、スピーカー越しに笑ってる。
妙な気分になったのは、こんなにも長い時間、しかもリアリティを持って彼女の姿を追っている、
そういう1日だったから、かもしれません。